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読書メモ:『文明が衰亡するとき』

 

文明が衰亡するとき (新潮選書)

文明が衰亡するとき (新潮選書)

  • 作者:高坂 正堯
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/05/01
  • メディア: 単行本
 

 

・本書は三部構成になっており、それぞれローマ帝国ヴェネツィア、現代アメリカ(執筆当時は1981年)を取り扱っているが、第二部が特に面白かった。ヴェネツィア共和国は十三世紀から十六世紀にかけて繁栄したが、その間にいくつもの危機に立ち向かい、浮沈を繰り返した。通商国家としての自由な精神と変化への対応力は、生活水準の向上と度重なる危機への対応の中で徐々に失われていく。若者の少子化・未婚化が進んだり、肉体労働である舟の漕ぎ手が自由人から奴隷へと変化していったという話は、同じく通商国家であり島国である現代日本と重なるところがある。十七世紀以降の衰亡について「ヴェネツィア人たちは疲れてしまった(p.172)」とする著者の表現は、文明衰亡の必然性が感じられて印象深い。日本人は働きすぎて疲れてしまったのだろうか?

 

・著者は衰亡論について、単に原因と結果に着目するのではなく、「衰亡に対する態度、あるいは古典的な知恵というべきもの(p.90)」を学ぶべきだとしている。成功に対して謙虚であれ、衰亡の運命に対して悲観的になりすぎるなetc、言うなればバランス感覚のようなものだろうか。本書が書かれた当時は日本の経済はまさに伸び盛り、怖いもの知らずであり、自国の文明を謙虚さを持って見つめなおす必要性を感じていたのだと思われる。翻って今の日本はすっかり停滞してしまっているけれども、ローマ帝国にせよヴェネツィアにせよ、一直線に衰亡していったわけではない。悲観的になりすぎず、柔軟に変化に対応していく必要があるのだろう。